2020年9月15日火曜日

「悲心の器」と「悲の器」

 「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、宗教学の岸根敏幸先生です。


 私は文化学科の専門科目で「宗教文化論」(旧カリキュラムでは「アジア宗教文化論Ⅰ」)の授業を担当しており、その授業で扱っているテーマの一つとして「仏教における業と輪廻」というものがあります。このテーマで中心になっているのは地獄です。地獄というものが、様々な宗教で語られている通りに存在していると思っている人は、(私を含めて)そう多くはいないでしょうが、それでも、地獄について考えることには、生きるということの本質につながるものがあるのではないかと、強く惹かれるのです。それについては授業でも多少話していますし、機会があれば、ある程度まとまった文章を書いてみたいとも思っています。

 それはともかくとして、授業でこの地獄を説明する際に典拠としているのが、平安時代中期に活躍した源信の著書『往生要集』です。この書は、極楽浄土への往生について、様々な仏典の記述を渉猟して、要点をまとめているのですが、注目されるのは、冒頭から、これでもかと言わんばかりに、地獄のおぞましさを延々と描き出している点です。端的に言えば、地獄をはじめとする六道輪廻がこんなにもひどい場所なのであるから、できるだけ早く立ち去って、極楽浄土に往生しなさい、という論理なのですが、地獄のおぞましさについて、微に入り細に入り、執拗(しつよう)なまでに描き出そうとする異常さに圧倒されるのです。

2020年9月8日火曜日

おじさんの十字架

 「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、社会学の開田奈穂美先生です。


こんにちは、2020年4月に着任した開田奈穂美です。私は大学入学以降の15年ほど東京で暮らしていましたが、元々出身は長崎県長崎市(旧外海地区)です。今回は自己紹介も兼ねて、私の実家で起こったちょっとした出来事について書いてみたいと思います。

私の実家がある長崎市の旧外海地区は、長崎市の中心部から車で一時間ほどかかる場所にあります。旧外海地区の一部の集落は、2018年7月に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連施設」として世界遺産に登録されました。世界遺産に登録された集落からは外れていますが、私が住んでいた集落にも、多様な宗教的バックグラウンドを持つ人たちが暮らしています。まず、キリスト教が禁止されていた時代から「隠れキリシタン」として密かに信仰を持ち続け、今でも独自の信仰を守っている人たち。そして明治に禁教の時代が終わって以降、キリスト教徒として教会に通っている人たち。そして隠れキリシタンやキリスト教徒を先祖に持ちながら、現在では仏教徒としてお寺の檀家になっている人たちです。

2020年9月2日水曜日

古代哲学における「意志の弱さ」(模擬講義)

  今回は哲学の岩田直也先生による模擬講義の映像をご紹介します。残念ながら2020年のオープンキャンパスは中止になってしまいましたが、福岡大学でどんな講義が行われているのか、ちょっと覗いてみましょう。