2021年9月1日水曜日

日本神話にまつわる小話:「千人」対「千五百人」

 「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、宗教学の岸根敏幸先生です。


 古事記神話の記述によれば、イザナキは妻イザナミに会おうと黄泉国を訪ねたものの、変わり果てたその姿に驚き、そこから逃げ去ろうとしました。その際、ヨモツシコメなどといった魔物的な存在からの追撃を何とか振り切りましたが、最後に立ちはだかったのはイザナミ本人でした。そこで、「事戸を度す」ことになります。「事」は「別」に通じ、「戸(ど)」は「祝詞」の「と」と同様に、言葉のもつ特別な力(言霊)を念頭に置くものでしょう。つまり、「事戸を度す」とは、呪力を用いて、死者に二度と戻って来ないよう言い渡したのです。ただし、日本書紀神話の伝承の一つに「絶妻之誓」(この四文字で「ことど」と訓読します)という記述があるのを根拠に、イザナキがイザナミに離縁を言い渡したと捉える説もあります。

 その時、二人の間で次のような会話が交わされました。
  イザナミ:如此為(かくせ)ば、汝が国の人草、一日に千頭絞(くび)り殺さむ。
  イザナキ:汝然為(なれしかせ)ば、吾、一日に千五百の産屋を立てむ。
 このようなやりとりがあったため、「一日に必ず千人死に、一日に必ず千五百人生まるるなり」ということになったとされます。ここで示されている「千人」と「千五百人」の対決が今回のテーマです。

 この「千人」「千五百人」は各々「ちたり」「ちいほたり」と訓読しておきます(「ち(の)ひと」「ちいほ(の)ひと」と訓読する説もあります)。「たり」という語は、人間を数える時、数に添えるもので、文法的には「助数詞」と呼ばれているものです。今でも使われる「ひとり」「ふたり」は、「ひとたり」「ふたたり」の音韻縮約形である可能性が考えられます。日本語ではこの助数詞が非常に発達していて、同じ対象を数えるにしても、その様態に応じて、助数詞を使い分けることがあります。例えば、生きている人間ならば、「一人」「二人」ですが、死んでしまえば、「一体」「二体」となり、骨になれば、「一柱」「二柱」となります。

2021年8月23日月曜日

私がワクチンを接種する理由

 「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、社会学の開田奈穂美先生です。


新型コロナウイルスの感染状況が悪化し、福岡県でも過去最多の感染者数を記録しています。学生のみなさんはワクチン接種はできたでしょうか?

私は福岡大学の学生と教職員が接種可能になった7月上旬に1回目の接種をし、8月上旬に2回目の接種まで終えました。2回目の接種時の副反応が重いと聞いていたので、事前に準備をして身構えていました。しかし結果的には、接種当日の深夜に体の痛みで鎮痛剤を飲んだのと、翌日夕方にすこし発熱した程度ですみました。

2021年7月31日土曜日

「海の日」シンボルマークと豊増秀男さん

 「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、西洋近現代美術史、ドイツ美術の落合桃子先生です。


 東京オリンピック競技大会の開催に伴い、今年は「海の日」が7月22日(木)に移動しました。翌23日(金)の「スポーツの日」と合わせ、4連休となりました(福大では5月に臨時休講があったため、祝日授業日になりました)。

 「海の日」は、1995年に制定された国民の祝日で、1996年から始まりました。これを記念して「海の日」のシンボルマークが作られています。

 

2021年7月21日水曜日

西洋文学に見る誕生への呪詛と慨嘆

 「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、哲学・宗教学の小笠原史樹先生です。


今年度、前期の共通教育科目「宗教学A」では、「悪魔と近現代の神話」というサブタイトルで、悪魔に関わる西洋近現代の文学作品を扱っている。相変わらずの自転車操業で授業準備を進めながら、16世紀のクリストファー・マーロー『フォースタス博士』から始めて、この記事を書いている今週(7月13日現在)は、ようやく19世紀後半、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』まで辿りついて、何とか終わりが見えてきた。

ところで、授業の準備をしていると、様々な作品の中に繰り返し「生まれてこなければよかった」という慨嘆が見られて、その度に軽い驚きを覚える。ありふれた表現ではあるのだろうし、大して驚くべきことではないのかもしれないが、それにしても多い。このような誕生への呪詛や慨嘆と、悪魔との間に何か関係があるのだろうか、と考えてみたくなる程に多く、とはいえ、特に関係なさそうな気もする。

2021年7月14日水曜日

世界中の美術館をバーチャル訪問してはいかがですか。

  「 教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、西洋美術史の浦上雅司先生です。


 コロナ禍も2年目に入りましたが、その収束はまだ見通せません。日本でも東京都など緊急事態が改めて宣言され、オリンピックもほとんど無観客で行われることになりました。福岡では7月12日から制限が解除され、飲食店は通常営業できることになりましたが、しばらくするとまた感染者が増加するのではないでしょうか。

 コロナ禍のため、世界中の美術館も、昨年度は多数が長期にわたって閉館されていましたが、一年経って入場制限や検温、マスク着用義務化などの条件をつけて開館するところも増えています。美術館というところは元々、サッカー競技場や野球場のように大騒ぎするところではありませんから、開館の判断は間違っていないでしょう。福岡でも、福岡市美術館やアジア美術館、福岡市博物館なども開館していて、美術愛好家には嬉しいところです。

 残念ながら、海外の美術館を自由に訪れる機会はまだしばらくなさそうですが、幸いなことにインターネットで、世界中の主要な美術館・博物館をバーチャル訪問できるようになりました。全体のポータルになっているのはグーグルが提供しているアートアンドカルチャーというサイトです(https://artsandculture.google.com/?hl=ja)。

2021年5月31日月曜日

駅前オブジェとしての悪書追放ポスト

 「 教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、芸術学・美術史の植野健造先生です。


日本美術史、博物館学等担当教員の植野です。

 私は鉄道路線の駅前に設置された彫刻作品やモニュメント、オブジェに興味を持っています。この文化学科のブログでも過去2回、駅前の彫刻作品に関するエッセイを書きました。1回目は、201858日掲示の「福岡市天神―パブリック彫刻のお値段の話―」、2回目は2019516日掲示の「博多駅前広場の彫刻」です。

 駅前の彫刻、モニュメント、オブジェに関する興味は、半分は研究的な、もう半分は趣味的な関心に基づくものです。もともと私は幼少期から鉄道好きだった面があります。いわゆる鉄道趣味の「鉄ちゃん」には、いろいろなジャンルやカテゴリーがあります。「乗り鉄」「撮り鉄」「葬式鉄」「鉄子」「ママ鉄」「子鉄」など、鉄道ファンの呼び方も多様化しました。ほかにも、鉄道模型、切符、駅弁、時刻表、駅舎といった鉄道関係の趣味の対象はたくさんあります。

 その中でも、私は「駅前彫刻鉄」で、これはかなりの少数派ではないかと思います。

2006年頃に駅前彫刻、モニュメント、オブジェのデータベース構築の試みを思いつき、知り合いの研究者に呼びかけてみましたが、その時の企画はうまく進みませんでした。いつか、不特定の多くの方々に情報と画像を提供していただくようなシステムの構築を試みてみたいと考えています。

2021年5月17日月曜日

対面・遠隔授業雑感


「 教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、哲学の岩田直也先生です。


 このブログ記事を書いている2021年5月12日、福岡県に3回目の緊急事態宣言が発令されました。変異株によって感染が再拡大し、より若い世代を含めて重症化率が高まっているとの情報もあり、より厳しい措置が講じられるのも致し方なしといったところです。首都圏や関西の多くの大学は一足先に遠隔授業に舵を切っていましたが、福岡大学でも来週から、部分的にではあるものの、再び遠隔授業に移行するとのことです。

 ゴールデンウィーク前までの約3週間は、1年ぶりに対面授業が全面的に実施され、様々な制約があるとは言え学内は非常に賑やかでしたね。私自身昨年度に着任したこともあり、1年越しにようやく教壇に立つことができ、福岡大学にやって来たことを改めて実感した期間でした。新2年生の多くも同じような感慨を抱いたのではないでしょうか。実際、文化学演習Iの授業では、ゼミ生同士顔を合わせて議論することができ、とても楽しいという声も聞かれました(授業内容が多少なりともそれに貢献していたら嬉しいのですが)。私の方も、大人数のクラスだとなかなか難しいですが、学生のみなさんとの直接的な交流を通じて、より大きな充実感を授業から得られています。