福岡市天神-パブリック彫刻のお値段の話-
植野健造(美術史)
*画像はすべて植野健造、1と3は2017年11月16日、2は2011年6月4日撮影
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日本美術史、博物館学担当教員の植野です。私は25歳の時から50歳で福岡大学に転職するまでの25年間(1986年~2011年)、久留米市の石橋財団石橋美術館(現在は久留米市美術館)で学芸員として勤務した経験をもちます。美術館学芸員の仕事は展覧会の企画開催や、美術資料の収集、整理保存、研究、展示、教育普及と多岐にわたりますが、来館者への展示解説も重要な仕事の一つでした。この展示解説、なかなか困難な仕事です。
美術作品についてその良さを一生懸命に説明しても、来館者にはそれがなかなか伝わらず、もどかしさを感じたことも少なくありません。若い頃はそれでも、自身のベースとなっている美術史的視点からの説明に磨きをかけることを心がけていました。
ところで、1990年代にテレビ東京制作の「開運!何でも鑑定団」という番組の放送が始まった頃から、来館者から「この絵はいくらくらいするのですか?」という質問を受けることが多くなりました。それまで学芸員にとって、値段で作品の価値を説明することは邪道で、決して行ってはいけないことだったのですが、実際には値段ほど来館者が納得する説明は他にないことに気づくことになりました。盗難の心配など作品保全の観点から、みだりに作品の値段を言うことは避けた方がよいのですが、時として来館者に展示品に直接、間接に関連する美術品の値段の話しをそっとするようになりました。
皆さんも美術作品の値段、興味あるのではないでしょうか? ここでは、美術館の中ではなく、福岡市天神にある銅像彫刻の値段のことを書いてみようと思います。これら街中にある彫刻作品はパブリックアートとも呼ばれます。福岡市のウェブサイトの中の「都市景観室 彫刻のあるまちづくり」によれば以下のようにあります。
「福岡市では、公共空間などに屋外彫刻の設置をする『彫刻のあるまちづくり』を進め、広く親しまれ市民の誇りとなるような芸術性の香り豊かな都市空間を目指しています。
1983 年度のスタートからすでに25体の彫刻を設置し、現在では、福岡市都市景観形成基金への寄付や、民地(公開空地等)への設置促進を誘導するなど新たな手法も取り入れて、彫刻のある豊かなまちづくりを進めています。」
そして25点の彫刻作品のリストが掲示されています。ただし、作品の値段については記載されていません。
そこで参考になったのが、KBCテレビ「ドォーモ」という番組の2016年11月15日(火)00:15(14日(月)深夜)放送の「街角HOWマッチ」という特集です。
番組では以下の作品と「値段」が紹介されていました。(「値段」以外のデータは前記「都市景観室 彫刻のあるまちづくり」他による)
1
黒川晃彦《プリーズ、リクエスト Please, Request》
1992年、ブロンズ
設置場所: 中央区天神1丁目 市庁舎ふれあい広場北側緑地
設置年月日: 平成4年12月25日
960万円
2
オシップ・ザッキン Ossip ZADKINE(1890-1967)《恋人たち Les amoureux》
1955年、ブロンズ、鍍金
設置場所: 中央区天神2丁目 パルコ横
設置年月日: 平成3年5月13日
平成3年3月 日本宝くじ協会寄贈
7,000万円
3
エスター・ワートハイマー Esther WERTHEIMER《プリマヴェーラ Primavera》
1992年、ブロンズ
設置場所: 中央区天神1丁目 市庁舎ふれあい広場
設置年月日: 平成4年3月30日
4,000万円
4
中村普也《春を奏でる》
設置場所: 中央区天神2丁目 警固公園
設置年月日: 平成2年3月19日
500万円
5
山崎朝雲《桂の影》
設置場所: 中央区天神1丁目 日生ビル横
設置年月日: 昭和61年3月17日
880万円
6
キース・ヘリング《無題》
設置場所: 中央区舞鶴2丁目 あいれふ
設置年月日: 平成6年11月8日
2,400万円
7
安川民畝《風景門》
設置場所: 中央区大名2丁目 大名2丁目バス停横
設置年月日: 平成2年3月19日
927万円
8
松永真《平和の門、他4点》
設置場所: 中央区大名2丁目 天神西交差点歩道広場
設置年月日: 平成10年6月24日
1,575万円
実際には、これらの作品のすべて、あるいはほとんどは寄贈されたもののようで、この「値段」がどのような内容なのかの説明は番組ではありませんでした。寄贈者が購入した時の価格なのか、寄贈された時の評価額なのか、あるいはその値段は本体価格なのか、輸送や設置工事を含めた設置事業費用の総額なのか、詳細は不明です。しかし、テレビ番組ですから一定の取材調査にもとづくものと考えます。また学芸員経験者として、納得ゆく価格であるとも思いました。おそらく皆さんの予想よりもかなり(かなり)高いのではないでしょうか?
番組出演者の一人である斉藤ふみさんは、「みんな、もっと大切に見ようよ」というようなコメントをおっしゃっていました。「大切に見る」とはどのように見ることなのか疑義もありますが、気持ちは理解できます。同感です。皆さんも機会をみつけて、大切に見てみて下さい。
そして、その次におこる疑問は、「美術品の価格はどうやって決まるの?」ではないでしょうか。その疑問にはまた機会があれば説明を試みてみたいと思います。
参考:
福岡市のホームページ「都市景観室 彫刻のあるまちづくり」
*画像はすべて植野健造、1と3は2017年11月16日、2は2011年6月4日撮影
□植野先生のブログ記事
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