2015年4月20日月曜日

心理学を学べば“人の心は読める”ようになる?(池田浩先生)

心理学を学べば“人の心は読める”ようになる?

池田 浩


 入学式も終わり、いよいよ授業が始まりました。新入生の皆さんは、高校までとは異なる学問に触れて知的な好奇心を抱いている人も多いのではないでしょうか。
 私は、心理学が専門で、毎年、共通教育科目で「心理学A」(後期は心理学B)を担当しています。前期の授業が始まり、既に2回ほど進行しましたが、毎年必ず初回で話題にするテーマを今回取り上げたいと思います。

 それは、心理学を学べば“人の心は読める”ようになるのか?という問題です。
 心理学は、人の“心”について学ぶ学問であることから、人が何を考えているのか、どんな気持ちなのか、自分のことをどう思っているのか、など分かるようになると一般的に考えられているようです。いわゆる「読心術」です。実際、私も職業を尋ねられて、大学で心理学を教えていると言うと、9割ぐらいの相手から「私が今何を考えているか、分かりますか?」と尋ねられます。

 あらかじめ、この問いに答えましょう。人の心は読めません!「心理学A」の授業では、心理学とは人の心を読む“読心術”ではなく、科学的な方法を用いて人の心のメカニズムを明らかにする学問であると教えています。

 ただし、人の心は読めないというのは、あくまでも“正確に”読めないということであり、我々が人の心を読んでいない!というわけではありません。私たちは、日々、相手の心(考え、気持ちなど)を推し量って生活しています。実際、そうした心を読む行為が、友人と友情を育み、恋人を作り、スポーツでチームワークを発揮したり、就職面接でうまく質問に答えることができるように、人間が社会生活を適応的に営む源になっています。最近では、よく“空気を読む”という言葉を使いますが、まさに相手の気持ちや考えを察して、それに相応しく振る舞うことが期待されていることの表れです。

 実際、他者の心の状態や意図、考えを推測できるようになるのは、だいたい4歳頃といわれています。心理学ではこれを「心の理論」と言います。こうした「心の理論」の発達と集団の形成には密接なつながりがあり、他者のことを推し量ることができるようになるために、集団を作り、そこで活動することができるようになります。

 しかし、4歳以降から心を読むようにはなりますが、それが必ずしも当てはまっているとは限りません。いつも誤解や齟齬が伴っています。
 例えば、ケニーとデパウロによる興味深い実験を紹介しましょう。彼らは、集団で一緒に働いている人達に、自分に対する他の人たちの評価を予測してもらいました。すると、集団全体が自分をどう評価しているかは、おおよそ予測することができていました。自分は総じてこんなイメージを持たれているんだろう、という予測はそれなりに的を得ているようです。
 ところが、集団の一人ひとりの評価をどれだけ正確に予測できるのかと言えば、ほとんど予測できていないことが分かりました。つまり、AさんやBさんが、自分のことをどう思っているかは、全く自分の予想とは外れていたわけです。

 このように、いくら心を推し量ったとしても、相手との間には齟齬が生じる可能性があります。それが、もしかしたら相手との仲違いを引き起こす原因かもしれません。例えば、相手が本当に嫌がっていることに気づかずにエスカレートするストーカー行為、相手が不快であることに気づかない各種のハラスメント、あるいは友人は余りに気にしていないことを過度に気にして落ち込んでしまうことも、心を読むことの誤解や齟齬から生じる問題と捉えることもできるのではないでしょうか。

 読心術は、人間関係を育む大事な営みではありますが、それをあまり過信せずに、お互いに心を開いて(変に心を読まなくてもいいように)信頼関係を築くことが必要かも知れません。
 
 今回のブログのテーマに興味のある方は、ニコラス・エプリー(2015)『人の心は読めるか?』(波多野理彩子 訳)早川書房 をご覧下さい。

参考文献
Kenny, D. A., & DePaulo, B. M. (1993). "Do people know how others view them? An empirical and theoretical account", Psychological Bulletin, 114, 145–161.
Epley, N. (2014). Mindwise: How we understand what others think, believe, feel, and want, New York, NY: Alfred A.(ニコラス・エプリー(2015)『人の心は読めるか?』(波多野理彩子 訳)早川書房)

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