「教員記事」をお届けします。第四回は地理学の磯田則彦教授です。
異文化の接触地帯インナーモンゴリア
まず、人口研究についてですが、具体的には人口移動研究と人口問題研究が中心になります。前者については、日本・北アメリカ・北・西ヨーロッパを中心に研究してきました。人は生まれてから死ぬまである場所に定住し、一切別の場所に移ることがなくてもよいのでしょうが、実際にはライフステージの要所要所で移動を行う人が大勢います。果たして、「その人たちは、どのような属性で、どういった理由で移動を行うのでしょうか?」。以前から、そんなことが気になってしまいます。
また、後者については、非常に大まかな表現を許していただければ、「人口が停滞から減少へ向かいつつある社会」(現時点では、概して先進諸国の一部や東欧諸国に多く見られます)や、「短期間に人口が急増している社会」(概して、後発開発途上国とイスラーム諸国に多く見られます)を対象として研究を行っています。出生と死亡に影響を与える社会経済的要因や政策などが中心的なテーマです。
ご存じのとおり、インナーモンゴリアは中国とモンゴルの国境地帯のうち中国側を指す地名です。人口はおよそ2,500万人で、8割近くが漢族、2割弱がモンゴル族という人口構成です。面積は日本のおよそ3倍という広大さです。このアーティクルをご覧の皆さんにとっては、「大草原の広がる牧歌的な雰囲気」が想像されるのではないでしょうか。
ところで、みなさんはモンゴル文字を見たことがありますか?なかなかユニークで、素晴らしいですよ。現地のモンゴル族の方たちは、文化的なアイデンティティが失われていくことを危惧し、自己の文化継承を強く意識して、お子さんたちの学校教育においてモンゴル語や文字が学べるところを積極的に選択する方が多く、かなり遠方にある学校まで親御さんが送迎されています。このようにして、文化が継承されているのですね(ご家庭は言うに及びませんが)。
さらに、ここの食文化も接触地帯としての特徴をよく表しています。ナイチャーと羊肉料理に代表されるモンゴル料理に、北方を中心とした漢族の料理が加わった構成です(注:そもそもナイチャー自体がミックスされたものですが)。いずれも絶品です。
大草原には羊の群れが遊び、ヒマワリたちが咲き誇る季節。地平線が見えるこの広い広い大地では、どこに雨雲があって、どこで雨が降っているのかも一目瞭然です。この異文化の接触地帯の大自然と人々の思いを載せた、マートーチンが奏でるドゥドゥマーの歌を聴きながら大草原を駆け抜けていく。私にとって、現在、最高のフィールドです。(終)
磯田 則彦教授
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