2018年11月16日金曜日

「どうぞどうぞ」の社会心理学(縄田健悟)

文化学科のブログ委員でもある縄田から,平成30年度第10回目の教員記事をお届けします。



「どうぞどうぞ」の社会心理学

縄田健悟(心理学

文化学科教員の縄田です。 こんにちは。

専門は社会心理学です。
ざっくりいうと「人間関係の科学」みたいなことを研究しているんですが,
今日は,「他人に合わせて行動する」ことに関して,書いてみたいと思います。


ダチョウ倶楽部の持ちネタで「どうぞどうぞ」ってご存知ですか?






1. 熱いおでんを食べる,熱湯風呂に入るといったことをしたがらない上島竜兵に,
2. リーダーと寺門が「じゃあ俺やるよ」と手を挙げて,
3. 「じゃあ俺も…」と竜ちゃんが手を挙げたときに,
4.「どうぞどうぞ」と二人が言って,
5. 結局,竜ちゃんがしたくないことをすることになる,

という定番ギャグです。

さて, この竜ちゃんが手を挙げた行動,
これは周りの人に合わせて手を挙げたという意味で, 社会心理学では「同調」と呼ばれる現象です。

で,この心理メカニズムなんですけど,実はこれ,結構解釈しにくかったりもします。

◆同調


まず,同調の説明をします。

同調とは,周りの人皆がやっているのと同じ行動を取ることです。

この同調,心理面では大きく2つに大別されます。

(1)規範的影響に基づく同調
(2)情報的影響に基づく同調

です。

(1)規範的影響に基づく同調


こちらは 「自分だけ他人と違う行動を取って,周りから嫌われたくないなあ」と思って同調するものです。

授業では,アッシュの同調実験を紹介しました。
この実験ではフリップにかかれている同じ長さの線を選ぶっていう,一人ならほぼ間違えない問題に答えてもらいます。
このとき,集団の周りの人が全員が間違えた①だと答えていたら,②に見えるんだけどなあ,と思いながらも,周りに同調する人が続発します。

1950年台のアメリカの実験では,12回中1回以上同調したのが4分の3くらい,と多くの人が同調してしまいました。
文化差も報告されてはいますが,基本的にはどこの国でも起こる現象です。


(2)情報的影響に基づく同調

こちらでは「皆がそうするなら,こっちが正しいに違いない」と考えて同調しています。

行列のできた店に自分も並ぶというのは,それが「美味しい」お店だと思って,皆と同じように同調して並ぶわけです。

もしくは,例えば,賞状の受け取り方とか,お焼香の仕方が分からないときに,
皆がやってるのと同じやり方でやります。
それが正しいだろうと判断して。



この2つ何が違うの?


違いは特に,内面化度合い,つまりその皆がやっている行動を本心に取り込んでやっているかどうかに表れます。

規範的影響に基づく同調だと,本当はやりたくなくとも,自分だけ違う行動を取って嫌われないいために同調します。

情報的影響に基づく同調だと,皆がやってることは正しい・良さそうだなと,自分の意見として取り込んで同調しています。



じゃあ,ダチョウ倶楽部の「どうぞどうぞ」はどっち?


で,ダチョウ倶楽部の「どうぞどうぞ」ってどっちだと思います?

もう一回振り返ると,熱いおでんを食べるなどの「嫌なもの」をやりたくないときに,周りの二人が手を挙げたことに同調しています。


もしもここで, 「あれ?皆が手を上げるなんて,もしかして熱いおでんは美味しいかな?」と意見を変えて手を上げていれば,情報的影響です。
 
一方で,「皆も手を挙げている中,自分だけ手をあげないなんて浮いちゃうかな,マズいかな」と思って,本心では嫌だと思いながら手を挙げていれば,これは規範的影響になります。
 
さーて,どっちなんでしょう。

手を挙げた時点で「熱湯風呂」に対する態度変容が伴っているかどうかが分ける鍵なのですが, まあギャグですからね。


竜ちゃんの内面は分からないですし,きっちり分けるの難しいかもしれません。
 
学生にも授業のコメントシートを通じて尋ねてみたのですが,
情報的影響として解釈する人が若干多かったとはいえ,
結構,意見は割れていました。


◆ギャグが生まれた瞬間では


「どうぞどうぞ」のギャグが生まれた場面に関する記事を見つけました。

- ダチョウ倶楽部が定番ギャグの誕生秘話明かす ロケでの偶然
寺門は「あれは現場から生まれたんですよ」とコメントし、上島がバンジージャンプをするはずだったロケ現場で、まさに飛ぶ直前になって上島が拒否してしまった状況を説明した。
その現場は、番組用に特設されたもので、クレーン車2台を使った大規模なものだったそう。肥後は「制作費がパーになるから、スタッフに申し訳ない」と思ったらしく「上島が飛ばないんだったら僕が飛びます」と言ったそうだ。
そこに寺門も「だったら、オレが飛ぶよ」と言い出し、そこで上島も「じゃあやっぱりオレが飛ぶ」と言ってしまい、それを受けてふたりが「どうぞどうぞ」と返し、上島が「なんだそれは!」とツッコミを入れたのがきっかけで、ギャグが誕生したそうだ。
ギャグが誕生したシーンでは,どうやら規範的影響で同調したみたいですね。

リーダーと寺門が「俺が飛ぶよ」と手を挙げている状況で,

上島竜兵が自分だけ「飛ばない」なんて言えず,つい手を挙げてしまったというものです。
別にバンジージャンプが楽しいかもとは思ってないので,情報的影響ではないわけです。

とはいえ,ギャグの場面でも同じく規範的影響なのかというとそれは分からないことです。




さて,こうしてダチョウ倶楽部の定番ギャグを社会心理学の視点から解釈してみました。


こうしたちょっとしたギャグも,人間関係における心理・行動的な背景をじっくり考えてみると,けっこう興味深いものではないでしょうか。



0 件のコメント:

コメントを投稿