2017年9月30日土曜日

平成29年度 卒業論文相談会が開催されました

 3年生対象の、平成29年度卒業論文相談会が9月29日(金)に開催されました。今年も多くの3年生が参加しました。


 卒業論文は、自ら「テーマ」を見つけて、さまざまな証拠(統計データや実験結果、文献資料、フィールドワークデータ etc.)を示しながら、結論へと導いていく一連のクリエイティブな作業をいいます。たとえば、時間について考えたい、エッシャーという画家の作品を掘り下げたい、人工妊娠中絶の是非を考えたい、危険ドラッグ使用者の心理的特徴を明らかにしたい、なぜ多くの人がディズニーを好きなのか明らかにしたい、などなどです。

 卒業論文に取り組むということは、初めて学問の分野で何かを生み出す、創造をすることに他なりません。大学生として本当の学びの実践をすることになります。

 この相談会は、教員と3年生が一堂に会して行われます。複数の教員と話をすることで色々なヒントが得られたことでしょう。この相談会を出発点として、卒業論文のテーマと指導教員が決まっていきます。

 これから1年以上をかけて、どのような個性豊かな卒業論文が生まれてくるのか、傑作、力作を期待しています。


2017年9月29日金曜日

LC哲学カフェ開催:ホラーを哲学する


一昨日、後期第一回目のLC哲学カフェが開催されました。タイトルは「なぜこのマンガは怖いのか?――ホラーを哲学する」。今回はいつもと異なり、はじめから特定のマンガ作品を取りあげるのではなく、各自で「このマンガが怖い、この場面が怖い」と思うような作品を持ちよる、という企画。

参加者は学生諸氏が7名に教員が3名。一応マンガから話は始まったものの、むしろ映画やお化け屋敷、ジェットコースターなどの「怖さ」を中心に、話は進んでいきました。

話題になった主な作品は下記の通り。

 マンガ
  伊藤潤二「中古レコード」、小林銅蟲『寿司 虚空編』、冨樫義博『レベルE』
  諫山創『進撃の巨人』、阿部共実『大好きが虫はタダシくんの』

 小説
  鈴木光司『リング』、山田悠介『アバター』『親指さがし』

 映画
  「貞子vs伽椰子」、「ジュラシック・ワールド」、「ヴィジット」

さて、ある作品やある場面が怖いのはなぜか。異常だから? 理由がわからないから? リアルで身近に感じられるから?

ホラー映画は暗い映画館の中で観るから怖いのであって、明るいとダメ? しかし、映画館でコメディを観て笑う、という場合もある。昼間に大勢の人に囲まれた明るい空間で、スマホで怖い動画を観てゾッとする、というケースも考えられる。

そもそも「怖い」とは何か。怖い=びっくりする? お化け屋敷の怖さは、ほとんどびっくりによるもの。しかし、怖さにはそれ以外の要素もある。怖い=身体的な反応? 例えば、心拍数が上がること。しかし、怖くなくても心拍数が上がる場合もある。「楽しい」の反対が「怖い」? しかし、わざわざホラー映画を観にいったりジェットコースターに乗ったりするのは、怖さを楽しむためのはず……?

集団心理の怖さ、対処できないことや予想できないことの怖さ。リアルな怖さとファンタジーの怖さの違い。苦手なものに注意を向けてしまうことの怖さ、見なれているものに異物が加わることの怖さ。さらに、「怖い先生」の話や呪いのわら人形、等々にまで論点は拡散。いつも通り特に結論も出ないまま、そして特に結論を出そうともしないまま、今回も時間切れで終了となりました。

なぜ怖いのか、怖いとは何か、という点について色々な「説」が出ましたが、関連して、次の本がおすすめ。

 戸田山和久『恐怖の哲学――ホラーで人間を読む』、NHK出版新書、2016年

この本を読んだ上で、改めて「怖い」について考え直してみると、何か、見えてくるものがあるはず。残念ながら、現時点で図書館には所蔵されていないようですが、書店の新書コーナーなどで簡単に入手可能。読みやすい好著ですので、ぜひ一読を。

2017年9月24日日曜日

文化学科で教師を目指そう(LC16台 白山愛永さん)

 今年度第8回目の学生記事をお届けします。教師を目指す文化学科2年生の白山愛永さんが文化学科における教職課程の履修について紹介してくれました。


文化学科で教師を目指そう
LC16台 白山愛永

 人文学部文化学科に所属している2年の白山です。私は高校の時から教師になりたいと考えていました。私が教師になろうと思った理由は、中学3年生の時の担任の先生への憧れです。先生の授業は丁寧で分かりやすく、生徒一人一人をしっかり見て、進路指導でも様々な進路を提案してくださいました。その先生の影響で、私も担任のクラスだけでなく、学年全体を見られるような教師になりたいと思いました。そこで、文化学科に入学後に、教職課程を履修しました。

 福岡大学では主に中学校教諭、高等学校教諭、養護教諭免許状の免許を取得することが出来ます。私はその中でも中学教諭、高等学校教諭の免許状を取得しようとしています。文化学科では中学社会と高等学校地理歴史・公民の教諭になることが出来ます。

1年次  4月 教職課程ガイダンス・履修開始
教職課程受講料を納入
2年次  1月 介護等体験申し込み(中学のみ)
3年次  6月
 6月以降
教育実習申込み
介護等体験(中学のみ)
4年次  5月以降
 9月
 3月
教育実習
教員免許状申請
卒業・教員免許状取得

 文化学科で教職を履修することの利点は、ほかの学科と違い、様々な分野から様々な知識を得られることです。文化学科には心理学や社会学・美術史・哲学・宗教学・文化人類学・民俗学・地理学といった分野に分かれており、3年次には専攻するゼミを決めて追及していきます。一つの意見や見方に捉われることがなくその各分野ごとの考え方があり、学んでいてとても面白いです。教師になる上で社会科関連の勉強をだけをしていけばいいかというとそうでもないですし、歴史を学ぶ上で、ただ単にその時代の背景を教科書や本で知るだけでなく、宗教から歴史を知ることもあれば美術から学ぶこともあります。この学科では自分の目の前にあるどんな分野においても、自分から何かを学びを得ようとする力を身に着けることができると思います。

 教職課程では各分野で以下の必要な単位数を取得しなければなりません。
①教育職員免許法施行規則第66条の6に定める科目
②教職に関する科目
③教職又は教職に関する科目
④教科に関する科目

 ①では例えば日本国憲法や体育、外国語コミュニケーション、情報機器操作などの学部においても教師になるにあたって必ず必要な科目です。②では1年次では教育概論や教育言論教育心理学など教育に携わっていく中で必要な科目を学びます。③では教育福祉論や教育行政学など様々な分野の教育について学びます。また、今後道徳が教科として取り入れられていこうとしている中で道徳教育論は必修科目となっています。④では各免許を取得しようとしている教科専門の科目です。例えば社会の先生になりたいなら、一般教養科目である外国史通論や日本史通論、専門教育科目である人文地理学や地誌学は必修科目になります。学年ごとにとれる科目が決まっていますから、1年の時から全部履修できるわけではありません。このように必要となる単位は自分の卒業単位とは関係なく履修するものが多いですが、少しでも教育関係に興味がある方は是非取るべきだと思います。1年次から計画的に履修していけば自分のペースでゆっくり前に進んでいくこともできます。

 また私はボランティアサークルに所属しています。サークルの活動では子供たちとかかわることが多く、長期休みに子供たちに勉強を教えることもあります。このような活動の中で子供たちや親御さん、その施設の利用者さんから学ぶことは多くあり、刺激を受けています。この経験が将来の自分の糧になればいいなと思っています。


 文化学科は新しい自分を発見できる機会が多くある学科だと思っています。一つの学びだけでなく様々なことに目を向け、挑戦していきたいと思う方は是非文化学科を選んでみませんか?

2017年9月19日火曜日

卒業論文相談会開催のお知らせ(再掲)

卒業論文相談会開催のお知らせ(再掲)
(LC15台/3年生対象)

10月上旬の「卒業論文指導願」提出に向けて、3年生を対象に卒業論文相談会を開催します。

 会場には文化学科の全教員が集合。その場で個々の教員に、卒業論文について個別に相談することができます。卒業論文を書くかどうか迷っている人も、ぜひ参加してみて下さい。

◆日時 2017年9月29日(金)16:30-18:00
◆場所 文系センター棟15階 第5会議室

 当日は『2017年度版 福岡大学人文学部文化学科 教員紹介』を持参して下さい。

 なお、この相談会に参加しなくても、卒業論文の指導を受けることは可能です。
 卒業論文を書くために必要な手続きについては、『2017年度版 福岡大学人文学部文化学科 教員紹介』の25-31頁「卒業論文を書くために――卒業論文をめぐるQ&A」を参照して下さい。
 卒業論文関連の最近のブログ記事は下記の通り。

平成28年度 卒業論文相談会が開催されました
平成28年度 卒業論文発表会が行われました
卒業論文発表会に参加して
卒業論文執筆を終えて(LC13台 植田舞香さん)
平成28年度提出の卒業論文題目一覧

何か不明な点があれば、教務連絡委員の小笠原か本多まで。

教務・入試連絡委員 小笠原史樹・本多康生
卒業論文指導願
【提出先:人文学部事務室前レポートBOX、提出期間:10月2日(月)~13日(金)】

2017年9月16日土曜日

早良区近辺の神社巡り(岸根敏幸先生)

 平成29年度第9回目の「教員記事」をお届けします。宗教学の岸根敏幸先生です。今回は、「早良区近辺の神社巡り」と題して、ご自身の住んでおられる早良区近辺の神社について解説つきで紹介していただきました。



早良区近辺の神社巡り

   
     岸根敏幸(宗教学

 これと言った趣味はほとんどないのですが(本当は色々とあるものの、人前で自信をもって披露できないということもあります)、唯一挙げられるものは、日本の神様を祭る神社を巡るということでしょうか。

 神社巡りと言えば、だれもが知っている神社――たとえば伊勢神宮、出雲大社、住吉大社、厳島神社など、九州だったら、宗像大社、宇佐神宮、太宰府天満宮、霧島神宮などといった神社――を思い起こすでしょう。このように有名な神社は、その名声にふさわしく、どれも見応えのあるすばらしい神社でして、日本の宗教的伝統の真髄に触れることができるということで、そういう神社を巡るというのはとても有意義なことなのですが、それとは別に、各地域で細々と営まれている神社を巡り、その地域の、いわば宗教的な息吹のようなものを感じとるというのも、大切なことのように思います。

 今から5年ほど前でしょうか、文化学科の卒業生や在学生と連れ立って、城南区にある神社を巡ったことがあります。城南区には神社がそれほどないので、その気になれば、1日で巡ることができます。なかには海神社(城南区東油山)のように、油山に入って奥まったところにある神社もありますが、総じて言えば、それほど苦労しないで巡ることができるでしょう(もちろん、かなり歩きますが)。日本で一番多い神社は稲荷神社で、八幡宮はその次に位置すると言われていますが、城南区に限って言えば、圧倒的に八幡神社の方が多かったです。稲荷神社が多いのは、博多区や中央区のように商業が盛んなところ、それと海に近いところですね。

 それからも時々福岡周辺の神社を巡っていましたが、去年から散歩も兼ねて、私の住んでいる早良区近辺の神社を巡るようになりました。ただ、早良区というのは南北に大きく広がった地域で、北には百道、西新など、海に近く、賑やかな街もありますが、遥か南に行けば、バスも通っておらず、鬱蒼とした山々が連なっていて、それを越えれば、もう佐賀県になってしまうという場所もあります。城南区と違って、神社の数もかなり多いです。一般に、神社は都会よりも山地や田畑が広がる地域に多いものです。早良区内の神社をすべて巡るのは容易なことではありませんが、別に期限があるわけではないので、気の向くままに巡ってゆくつもりです。

 ということで、早良区近辺でこれまでに巡った神社の一部について、多少の解説を付けて、紹介したいと思います。


 まずは梅林八幡宮です(写真1)。一見、古墳を思わせるような(実際、その近くには梅林古墳という前方後円墳の古墳があります)盛り上がった台地に境内があります。この神社には何度か訪れましたが、境内で人を見かけたことはなく、非常に静寂な場所です。
 梅林八幡宮 (写真1)

 つぎは野芥の櫛田神社です(写真2)。櫛田神社と言えば、山笠で有名な博多の櫛田神社を思い起こしますが、他にも城南区荒江に櫛田神社があります。野芥の櫛田神社の御由緒を見ますと、創建は景行天皇(倭建命のお父上)の時代にまで遡るとされています。博多の櫛田神社は奈良時代後期の創建と伝えられているので、それより約4百年ほど古いということになるわけですが、本当のところはどうでしょうか。それほど広くはありませんが、落ち着いた雰囲気の境内です。その境内に「社日社」への案内板があり、それが気になって山を少し登ると、小さな祠のようなものがありました。この「社日社」というのは、最初の「社」がその土地の産地神(うぶすながみ)を意味し、「社日」で、その神を祭る春と秋の日が表されており、要するに五穀豊穣を願った産地神を祭る社のようです(早良区重留に祭神が不明の社日宮という神社があるようです。また後述する地禄天神社の摂社に社日社があり、そこでは、食物神で日本書紀神話にも登場する保食(うけもち)神が祭られています)。
櫛田神社 (写真2)

 その後、さらに南に向かい、国道263号をずっと下ってゆきたいという衝動に駆られますが、自宅からかなり遠くなってしまうので、そちらにはまだ足が向いていません。地元の神社巡りは今のところ、自分の足で行ける徒歩圏内を考えていますので、あまり遠出はできないのです。ということで、北西に移動すると、地禄天神社という神社があります(写真3)。街道に沿った細長い形の境内になっていて、輪越祭(茅の輪くぐりのこと)など、年間を通じて様々な祭礼がおこなわれます。特に8月15日におこなわれる綱引きと盆押し(肩車をして押し合う)は熱気のある行事だそうです。まさに地域と共にある神社と言えるでしょう。
地禄天神社 (写真3)

 そこからさらに北に向かってゆくと、賀茂神社があります(写真4)。賀茂神社と言えば、京都の葵祭で有名ですね。福岡の賀茂神社はナマズと密接に関わっていて、享保の大飢饉のときに、飢饉が収まるようにと氏子が祈願したところ、夢枕にナマズが出てきて、ナマズを殺すなというお告げがあったと言われています。賀茂神社のすぐ前に金屑川という川がありますが、その川の主であるナマズが賀茂神社のご神体だったということなのです。毎年9月15日には千個の明かりを灯して、無病息災を祈る千灯明という行事がおこなわれますが、元々は飢饉の犠牲者を弔うためにおこなわれたと言われており、仏教でおこなわれてきた万灯会(まんどうえ)に近いものと言えるかも知れません。
賀茂神社 (写真4)

 そのあと、北東に向かえば、やがて自宅に帰り着けることになりますが、余力があれば、西に向かうこともあります。福岡外環状道路に沿ってしばらく西に進み、そのあと南に少し行くと埴安神社があります(写真5)。埴安神を祭っているので埴安神社なのです。埴は土のことで、本居宣長翁は「はにねやす」(「ねやす」は泥状のものを作ること)が縮まって「はにやす」になったと説明しています。埴安神は古事記神話では「ハニヤスビコ」「ハニヤスビメ」という男女一対の神、日本書紀神話では「ハニヤマヒメ」という女神、または、「ハニヤス」という神に該当します。この神は早良区、城南区、南区にまたがる地域において複数の神社で祭られており(前述の地禄天神社の祭神も埴安神です。近代になって整理統合されたものと思われますが、城南区七隈の菊池神社や南区桧原の五社神社でも祭られています。なお、「地禄」はおそらく音声的な類似性から「十六」とも表記され、福岡県内に「地禄天神社」「十六天神社」という神社がいくつか存在しています)、その地域一帯の産土神なのではないかと前から気になっているところです。元々、土の神なので、それは十分ありうることなのですが、その実態について今後、詳しく調べてみたいと思っています。
埴安神社 (写真5)

 そして、さらに西に向かい、室見川を横切って、すぐ北に見えるのが橋本八幡宮です(写真6)。後に福岡藩三代目の藩主となる黒田光之は、生母との関係で橋本に地縁があり、そこにあった八幡宮を移築したのが、福岡藩の守護神として篤く崇敬された紅葉八幡宮です。橋本にあった八幡宮は後に再建されることになります。木々に囲まれた橋本八幡宮の境内はとても清々しいです。神社を巡るたびに思うことですが、こういう何か特別なものを感じさせる場所(科学的にどう説明したらいいのか分かりませんが、川の近くにあり、植物に覆われていることで、普通とは違う空気に包まれ、それが人間の心情に何らかの影響を与えるということも考えられるでしょうか)に神社などが建てられるわけですね。神社の裏手には阿弥陀三尊(中央に阿弥陀仏、左に観音菩薩、右に勢至菩薩を配する形)の名を刻した石碑と祠があります。神仏習合の名残でしょうが、今でも神社の境内に堂々と阿弥陀三尊が祭られているというのは興味深いです。なお、橋本八幡宮は早良区ではなく、西区にあります。室見川を渡ると西区になります。
橋本八幡宮 (写真6)

 そこから室見川に沿って、ずっと北上すると国道202号に接します。地図で見ると、その途中に若八幡宮があるようですが、訪ねたときには見つけられませんでした。その国道202号を東に少し進むと、小田部という所に宝満宮があります(写真7)。宝満宮と言えば、霊峰の宝満山(竈門山)にあり、かつてあった大宰府政庁の鬼門除けで知られる竈門神社がすぐ思い起こされます。玉依姫を主祭神にしていて、縁結びの神として有名です。小田部の宝満宮もそれに由来する神社なのでしょう。通常、玉依姫は神武天皇となった神倭伊波礼毘古命の母上のことを指しますが、そのような固有名詞としての用法だけでなく、霊的なものが依り憑く巫女の神格化を指す用法があるという指摘もあります(柳田国男「玉依姫考」)。福岡近辺にはこの宝満宮がかなり存在して(小田部からすぐ近くの有田にもあります)、太宰府市、福岡市とその近辺に広がっていたと思われる玉依姫信仰というものを伺い知ることができます(玉依姫は筥崎宮でも祭られています。おそらくは、筥崎宮に遷座する以前に、本来の祭神であった比咩大神を、福岡で信仰されている玉依姫に差し替えていたのでしょう)。
宝満宮 (写真7)

 そのあとも自宅に着くまでにいくつか神社がありますが、ここでは省略します。なお、今まで説明してきたコースは、私が思い描いているコースのなかの一つにすぎず、それ以外にもいくつかのコースとそのコース上に神社が存在しています。全部は紹介しきれないので、これぐらいにしておきましょう。

 他にも、前述のように、福岡藩から崇敬され、大正時代に現在の場所に移った、とても大きな境内をもつ紅葉八幡宮や、福岡市内のローカルな信仰だと思いますが、素焼きの猿のお面でよく知られている猿田彦神社など、早良区には興味深い神社がたくさんあります。そして、早良区の南の地域には、まだ巡ったことのないたくさんの神社が私をお待ちくださっているのです(随分、不遜な言い方をしてしまいましたが)。

 早良区近辺に限ってもこれほど多くの神社が存在しているのですが、日本全国を見渡せば、至るところに、正確な数も分からないほど、様々な神を祭っている神社が存在しているわけでして、日本の隅々まで、そのような神社が覆い尽くしていると言っても過言ではないでしょう。そして、人々が住む集落の一画に、あの特有の形をした鳥居(その鳥居の形にも実は様々な種類があります)のある神社が存在するという、どこにでもある光景なのですが、私たちに何とも言えない安堵感をもたらしてくれているように思います。それが神と共に生きる生活ということなのでしょう。このような日本の宗教文化をこれからも大切にしてゆきたいものです。


□岸根先生のブログ記事

2017年9月14日木曜日

LC哲学カフェ開催のお知らせ

夏休みが終わり、今日から後期の授業がスタート。お休みしていた哲学カフェも再開します。

今年度後期、第一回目の詳細は下記の通り。

 【マンガde哲学】
 なぜこのマンガは怖いのか?――ホラーを哲学する

 日時 9月27日(水)16:30-18:00
 場所 A707教室

今回はマンガを扱いますが、今までのように一つの作品だけを扱うのではなく、「怖い」をキーワードに様々な作品を扱ってみる予定。

参加者は各自、「自分はこのマンガ、この場面が怖いと思う」という作品をピックアップして、哲学カフェの当日、できるだけ教室に持参して下さい。あるいは現物なしに、その場で「こんなマンガが怖い、こんな場面が怖い」と話してもらっても構いません。それらの作品を素材に、なぜそれが怖い/怖くないのか、そもそも「怖い」とはどのようなことなのか、等々、皆で考えてみたいと思います。

一応マンガをメインとしますが、怖い小説や映画、怖い絵画や音楽などでも可。試しに探してみると、いくらでも素材は見つかるはず。

もちろん、作品を用意せずに参加するのも歓迎。発言を強制されることはありませんし、途中入室、途中退室も自由です。ぜひ一度、気軽にのぞいてみて下さい。

2017年9月5日火曜日

時間地理学・生活時間・生活空間(鴨川武文先生)

 平成29年度第8回目の「教員記事」をお届けします。地理学の鴨川武文先生です。今回は、8月に開催された福岡大学オープンキャンパス2017において、模擬講義としてお話しいただいた「時間地理学で考える生活時間と生活空間」の内容を一部加筆修正してご紹介いただきました。本文中の写真は模擬講義の際のものです。



時間地理学・生活時間・生活空間

   
     鴨川武文(地理学

 教員記事として以前にも書きましたが、私の専門は地理学の中でも、人文現象を研究対象とする人文地理学です。人文地理学は、工業地理学・農業地理学・人口地理学・都市地理学・村落地理学・文化地理学など多岐にわたっていますが、今回の教員記事では時間地理学を紹介します。

 時間地理学は、1970年代初頭に、地理学の一分野として提唱されましたが、時間を研究対象とするのではありません。時間は1日24時間、誰にでも等しく与えられていますが、時間の使い方は個々人で全く異なっています。個々人の時間の使い方がどのようになっているのか、時間の使い方が結果としてどのような空間行動をもたらしているのか、さらには現代社会の一面を考える契機となるのではないか、これらが時間地理学の目的とするところ、本質であると思います。より具体的に記すとすれば次のようになるでしょう。すなわち、時間地理学は個々人の空間行動を表現し、解釈するための地理学の一分野として位置付けられ、また、個々人の行動であれば、通勤・通学や買物、アルバイト、余暇といった行動を断片的ではなく、一連の生活の中で一括して捉えることを可能にし、さらに、土地利用や施設配置、交通ネットワークなどより多くの人々が利用する対象に対して、個々人の行動を通して総合的に捉えることを可能とする。つまり、時間地理学は個々人が空間の中でどのような時間で軌跡を描いているかを、その人を取り巻く諸条件から合理的に解釈しようとする地理学の一分野であるといえるでしょう。

 それでは身近な行動を事例として考えてみましょう。1日の行動を振り返ってみると、全くの自由意思による行動は意外と少ないのではないかと思います。つまり、私たちの行動はかなり日常化されています。たとえば、大学生や高校生の皆さんは、毎日、同じルートで通学していますね。そのルートは、徒歩や自転車の場合には最短のコース、交通機関を利用する場合には最も安価なルートが選択されると思います。これら以外のルートが選択されることはめったにありません。あるとすれば、本屋に行くであるとか、友達と学校帰りに出かけるとか、何か特別な理由があるときです。通学は授業が始まる時間であるとか、交通機関の時刻であるとか、いわば自分を取り巻く社会的ルールに影響を受けた日常であるということができます。

 別の事例を考えてみましょう。

 高校生のA君とB君は小学校以来の大の仲良しです。同じ高校に通学していますが、A君は体育系のクラブに、B君は文科系のクラブに入部しています。夏休みの部活終了後に喫茶店に出かけてミルクセーキを食べる約束をしました。B君の部活動は時間通りに終わりましたが、A君の部活動はなかなか終わりません。B君は喫茶店でミルクセーキを食べた後にアルバイトをすることになっていて、A君の部活動が早く終わることを期待しています。早く終わらないと楽しみにしていたミルクセーキを食べることができない、アルバイトの時間に間に合わない、すなわちB君のこれからの行動はA君の状況次第ということになります。
 
 2つの事例から、私たちの行動は、様々な制約の中で、また、第三者との行動と密接に結びついたものとして理解することができます。

 ここで、NHK放送文化研究所による「国民生活時間調査」のアンケート用紙を利用して福岡大学の学生の1日の生活時間を紹介しましょう。

 7月のある日の男子学生の生活時間です。この日は定期試験期間中でした。午前7時に起床して、身の回りの用事を済ませて、午前7時45分から午前11時まで自宅で試験勉強、その後、昼食を食べて、午後12時30分に自宅を出て大学へ向かいました。午後3時15分に大学から帰宅。その後、音楽を聴き、夕食を済ませて、午後9時30分から午後11時30分まで自宅で勉強をしました。大学でも自宅でも試験勉強に時間を使い、そして空間行動は、自宅と大学との往復だけでした。

 次に、7月のある日の女子学生の生活時間です。この日は定期試験期間中ではありませんでした。午前8時30分に起床して、身の回りの用事を済ませて、午前9時15分に自宅を出て、アルバイト先へ出かけました。午後5時にアルバイトが終わって自宅に戻り、その後は友人とおしゃべりなどを行いました。午後11時45分に就寝しました。この日は時間の多くをアルバイトと友人との交際に使い、そして、空間行動は自宅とアルバイト先との往復でした。この二つの事例では、試験期間中であるということが、また、アルバイトに従事しているということが男子学生・女子学生それぞれの当該日の空間行動を規定しているといえると思います。

 さらに、時間地理学に関する研究事例を紹介しましょう。参照した文献については下部に記しています。具体的には、都市の郊外に住む家族の1日と、保育所への子供の送り迎えと仕事の両立に関する事例です。この家族は夫(父親)・妻(母親)・子供の3人家族です。
ある日の家族の生活時間は次のようになっています。

 夫(父親)は妻(母親)と子供を車に乗せて保育園に向かいます。子供を保育園に預けて、夫(父親)は妻(母親)を駅まで送ります。妻(母親)は駅から列車に乗り、職場の最寄り駅まで向かいます。夫(父親)は駅から職場まで車で向かい、この日は午前8時15分から午後10時30分まで仕事をして、午後11時前に帰宅しました。一方、妻(母親)は午前8時30分から午後6時まで仕事をして、その後、駅から子供を預かってくれている友人宅へ向かい、午後7時に子供とともに友人宅を出て、帰宅しました。また、子供は午前7時45分から午後5時まで保育園にいて、午後5時に妻(母親)の友人が保育園に迎えに来て、友人宅で妻(母親)が迎えに来るまで世話を受けました。

 すなわち、個々の家庭が置かれている状況はもちろんあるのですが、家庭内の社会的役割分担では女性が育児を担うことが多いので、子供を持つ女性が仕事に従事している場合には、一時的に育児を第三者に委託しなければならない状況にあるわけです。この点、事例となっているこの家庭にあっては、保育所はもちろん、妻(母親)の友人の協力が極めて大きいことが理解できます。

 以上からどのようなことが言えるでしょうか?すなわち、個々人の生活が時間という目に見える形であきらかになる。また、統計データだけでは見えていないものが明らかになる。時間地理学の役割は、現代社会における様々な問題を時間という形で可視化し、さらには問題解決の方向性を見極めさせるというところにあると理解しています。


参考文献・統計資料
・高橋伸夫・谷内 達・阿部和俊・佐藤哲夫・杉谷隆編(2008)「改訂新版 ジオグラフィー入門」古今書院
・内閣府「少子化社会白書(現在では少子化社会対策白書)」および「男女共同参画白書」
・NHK放送文化研究所(2016) 「2015年 国民生活時間調査 報告書」



□鴨川先生のブログ記事
大学(人文学部)で学ぶということ-役に立つ学問とは何か-
氷が解けると春になる