2023年3月22日水曜日

令和4年度 文化学科卒業式が行われました

令和5年3月19日に,令和4年度の文化学科卒業式(卒業証書授与式)が行われました。

学科主任の平田先生より,学科の卒業生一人一人に学位記が授与されました。

皆様の今後のご活躍を,教員一同心より応援しております!










2023年3月14日火曜日

街中で見る排除的デザインと排除アート

 「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、 芸術学・美術史の植野健造先生です。


街中で見る排除的デザインと排除アート

植野健造(芸術学・美術史)


 日本美術史、博物館学等担当教員の植野です。文化学科のブログで過去数回、パブリックアートや駅前の彫刻作品、オブジェについて書きました。今回はその周辺というか、ある意味で対極に位置する、街中で見かける排除的なデザインや排除アートと呼ばれることもあるプロダクト(制作物)について述べてみたいと思います。

 2022年12月10日(土)から翌11日(日)にかけて東京に展覧会見学のため出張しました。その2日間に街中で目にした造形物を紹介します。10日(土)夜、二子玉川で大学時代の友人と食事をし、友人が蔦屋家電に連れて行ってくれました。その際に東急二子玉川駅周辺で石製の円形ベンチ(共同椅子)を見かけました(fig.1)。そのベンチはお餅のような姿形をして滑らかな表面仕上げをされた石に、銀色の金属の紐帯を襷(たすき)掛けしたデザインが施されていました。金属製の紐帯の附属物がなければ、石の上に寝そべることもできるであろう、しかし紐帯の突起があることによってそれが困難になっていると思われました。その頃ちょうど、NHKで「排除アート」に関するテレビ番組を見たばかりだったので、にわかに「排除」という言葉が頭に浮かんできました。そのベンチは、いわゆるホームレスと呼ばれる人々、あるいはそれ以外の一般の人々も含めて、そこに寝そべろうとする人を「排除」あるいは「拒否」するデザインとなっているのではないかと思われました。

fig.1
東急二子玉川駅付近の円形ベンチ(共同椅子)
2022年12月10日撮影 

 その夜は東京都大田区蒲田のビジネスホテルに泊まった。翌11日(日)ホテルをチェックアウトして外に出ると、すぐそばに西蒲田公園があり、その敷地内に彫刻作品があったので近づいてみた(fig2、fig3)。一見すると、それは公共空間を飾るパブリックアートの彫刻作品のようにも見えるが、作品名やタイトルを示すキャプションプレートが見当たらない。ベンチには木製の仕切りが取り付けられていて(後付けの可能性もある)、寝そべることができないようになっている。編み物をしてベンチに腰掛ける彫刻の老婦人の表情は穏やかではあるが、そこにはある種の意地悪な「拒否」の意図を読み取ることもできると思う。同じ公園内には、一人がけしかできないベンチが並立しながら複数設置されていた(fig.3)。大学生の頃、二日酔いした翌朝、公園のベンチに横臥し見上げた空が青かったことを思い出したが、現代では、ホームレスでなくとも弱った体の人々にも公園のベンチは優しくはないことが理解された。

fig.2
東京都大田区西蒲田公園のベンチと彫刻作品
2022年12月11日撮影


fig.3
東京都大田区西蒲田公園のベンチ
2022年12月11日撮影

 その後東京駅に行き、八重洲口から外に出た。そこにも寝そべることを許さないベンチがいくつも見い出された(fig.4 、fig.5)。また、船を表現したとおぼしきオブジェもあったが、やはり作者や作品名を示すキャプションはなかった(fig.6)。しかも、船の周囲の地面部は波をかたどった造形がみられる。そのオブジェの上方には大きな屋根がついているので、その凹凸のある波の造形物がなければ、ブルーシートや段ボールを敷くことも可能であったかもしれないと想像された。


fig.4
東京駅八重洲口前のベンチ
2022年12月11日撮影


fig.5
東京駅八重洲口前のベンチ
2022年12月11日撮影


fig.6
東京駅八重洲口前のオブジェ
2022年12月11日撮影

 京橋のアーティゾン美術館で展覧会を鑑賞した後、気になって上野公園に行ってみることにした。私の記憶では、1990年代上野公園では多数のホームレスや路上生活者の方々がブルーシートや段ボールの簡易住居で生活する光景を目撃していた。2000年代にはいったいつ頃からか、その光景を見かけなくなったように思う。あらためて、上野公園の現在がどうなっているのか気になった。柳美里さんの小説『JR上野駅公園口』河出文庫、2017年2月(単行本2014年)のことも想起された。同作品は作者が2006年にホームレスの人々の間で「山狩り」と呼ばれる「行幸啓」直前に行われる「特別清掃」を取材したことや、2011年の東日本大震災をモティーフとしているとのことである。

 JR上野の公園口から出て国立西洋美術館の前を過ぎて、公園に入り、右折して東京国立博物館の前までに行ってみた。はたしてホームレスの人々を見つけることはできなかった。博物館正面前の通り沿いの公園内にはかつて、ブルーシートや段ボールの簡易住居が並んでいたのだが、現在はブルーシートを覆った荷物が歩道にいくつか置いてあるのを見つけた(fig.7)。公園の入り口には立て看板があり、次のように書かれていた。「上野恩賜公園は午後十一時から午前五時までの間、夜間の立入りが禁止されています。東京都 上野警察署」(fig.8)。歩道に置かれているブルーシートで覆われた荷物はいったい何なのか?どのような人たちがどの時間帯にどのようにして使っているのか?疑問が浮かんだが、謎は解けなかった。ホームレスの人々はどこで過ごしているのだろう。



fig.7
上野公園・東京国立博物館前の通り
2022年12月11日撮影


fig.8
上野公園の立て看板
2022年12月11日撮影


 出張から帰って、五十嵐太郎『誰のための排除アート?不寛容と自己責任論』(岩波ブックレット1064)岩波書店、2022年6月という冊子を購入して読んだ。興味深い指摘を多数含んだ内容の本で、街中で見かける排除的なデザインや排除アートと呼ばれることもあるプロダクトについての関心が深まった。機会を改めてこの問題を取り上げてみたいと思っている。