2020年7月6日月曜日

パンデミックと美術

「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、西洋美術の浦上雅司先生です。

 現在、Covid19の世界的流行(パンデミック)は続いており、福岡大学でも少なくとも前期の授業は全て遠隔授業で行われることに決まっています。

 インフルエンザを中心としてパンデミックは歴史の中でしばしば起こっており、最近では2009年の新型インフルエンザもパンデミックと指定されています。これに限らず、1918年から20年にかけて猛威を振るった、いわゆるスペイン風邪など、歴史の中でパンデミックは度々起こっています。

 高校の世界史の教科書にも出てくるように、西洋史で一番有名なのは1348年の「黒死病」大流行でしょうが、ペストの流行はその後も繰り返し起こりました。

 美術の世界でもペストを題材にした絵は少なくありません。その中で、最も有名な作品の一つに、17世紀のフランス画家ニコラ・プッサンが描いた、《アシシドのペスト:ペストに襲われるペリシテ人》(1631年 148×198㎝ ルーヴル美術館蔵 下図)があります。

 この絵は旧約聖書サムエル記第五巻に記述される、ペリシテ人が神の怒りを買い、アイシドの町が疫病に襲われて、人々が次々と倒れた、という物語に基づくものです。古代風の市街が舞台となっていますが、前景には倒れている母親とすがって泣く乳飲み子、感染を恐れて鼻を押さえる人々など、Covid19流行の時代に生きる我々にとっては、ことのほかヴィヴィッドに思われる表現があります。この絵で、さらに興味深いのは、画面のいろいろなところにネズミが登場することです。左手のコリント式円柱の基盤のところや、右手奥階段の下(下図参照)に見られます。17世紀初頭の段階で、ペストの流行とネズミが関係していることは知られていたのでしょう。

 ペスト同様、Covid19もマスクや手洗いなど予防措置をシッカリすれば、防ぐことができます。このパンデミックもそのうちに収まるでしょうが、ワクチンが完成されるまでは、気を緩めてはいけません。三密を避けて安全に暮らすよう、心がけましょう。美術史の教員として、再び美術館に行って心おきなく美術作品を楽しみ、おいしいケーキを食べることができる日が早く来ることを心から願っています。
浦上雅司 (西洋美術史)

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