2019年6月20日木曜日

「漫画で文化研究!」プログラムに参加して

文化学科2年 井上綾乃

私は201868月にかけて北九州市漫画ミュージアムで実施された「漫画で文化研究!」というプログラムに参加しました。ここでは、「『漫画で文化研究!』ってなに?」「どんなことをしたの?」という疑問に答えるために、①プログラムの概要、②漫画ミュージアムでの実習、そして③私が書いたレポートの3つのことについて、実習記という形で書いていきたいと思います。

①プログラムの概要
「漫画で文化研究!」は、文化学科の7つの専門分野(哲学・倫理学、宗教学、芸術学、社会学、地理学、心理学、文化人類学・民俗学)をさらに広く、深く学ぶために北九州市漫画ミュージアムへ赴き、各自研究テーマを設定し文化研究を行ったのち、レポートを提出する、というものでした。
これだけ見ると「なんだか大変そう…」と思う方もいるかもしれませんが、実際に行ってみると、大変よりも楽しかったという印象が強いです。では次に、どんなことをしたのかについて具体的に説明していきます。

②漫画ミュージアムでの実習
漫画の「研究」?
漫画ミュージアムでは、実習に入る前に、学芸員の表智之先生が漫画に関することについて丁寧に解説してくださいました。まず、漫画を「研究」している表さんは、一般的に思い込まれがちな「漫画はただの娯楽であり、真面目に向きあうものではない」という考えを論理的に切り捨てます。
漫画の「研究」とは、ただ読むだけではわからない、読者が無意識に理解していることを解き明かすことです。漫画は、多くの日本人が小さいころから親しんでいるメディアであるために多くの“当たり前”が詰まっています。しかし、漫画の歴史や独特な表現方法、メディアや産業とのつながりを見ていくと、その“当たり前”は次第にときほぐれていき、漫画は非常に興味深い日本の文化の一つであることがわかるでしょう。私自身、表先生のお話を聞いて「漫画ってこんなにおもしろいものだったんだ!」と目から鱗が落ちる思いでした。


写真1.北九州市漫画ミュージアムの館内風景(館内の写真は許可を得て撮影しています)


写真2.表先生による館内ツアー(館内の写真は許可を得て撮影しています)

実習スタート!
さて、表先生の興味深い講義が終わると、さっそく調査が始まりました。ここからは基本的に個人作業になっていきます。まず私は、本棚にズラーッと並べられた漫画の中から、手塚治虫の『リボンの騎士』を手に取りました。この作品を選んだ理由は、漠然とジェンダーについて調べたいと思っていたところ、『リボンの騎士』という作品が様々なところでジェンダーの視点から取り上げられていることを知り、この作品から読んでみよう、と思ったためです。
手塚治虫の漫画を読むのは小学生以来でしたが、改めて読んでみると彼の表現力に圧倒され、ストーリーに引き込まれていったのを覚えています。一度楽しみながら読んだ後は、ジェンダーの視点からひたすら読みなおし、気づいたことや考えたことを書き留めていく作業が続きました(ちなみにこの時間、自分の好きな漫画を読んで楽しんでいる引率の先生もいらっしゃいました。もちろんサポートやアドバイスもしてくださったのですが…ちょっと羨ましかったです)。


写真3.参加学生による議論

他の参加者たちとの交流
他の参加者とは、博多から小倉までの新幹線の中などの移動時間、お昼休憩の時間に会話を楽しみました。雑談から始まり、漫画の話やレポートの相談など、普段なかなか話さない人たちとも会話ができ、交流を深めることができたと思います。仲良くなった参加者と話をしながら漫画ミュージアムへ行き、各々調査に集中したあと、帰りの新幹線へ向かいながら「今日はこんなことをした」と情報交換をしたのが印象に残りました。

③私が書いたレポート
 2か月間の実習が終わると、参加者はレポート執筆に取りかかります。おまけとして、私がどんなことについて書いたのかをちょっと紹介しますね。
私は、ジェンダーの視点から手塚治虫の『リボンの騎士』を読み直すことで、手塚のジェンダー観を考察する内容のレポートを書きました。なぜ『リボンの騎士』という作品が生まれたのか、手塚が登場人物に反映させたことは何か、本作品が描かれた当時の社会状況はどうなっていたのか、という問いのもと、『リボンの騎士』とジェンダーのつながりを考えた内容になっています(もし興味があれば、福岡大学人文学部文化学科[]2019)『漫画とシネマで文化研究』に収められた、私のレポートを読んでみてください)。
作品だけではなくその背景も併せて理解することで、ただ読んだだけでは気づかなかった多くのことを知ることができました。レポート執筆を進めていくうちにまだまだたくさん掘り下げていきたいことが見つかったので、これからも手塚作品を読んでいき、また違った角度からアプローチしてみたいと考えています。

 以上、「漫画で文化研究!」プログラムでの私の経験を主に書きました。この実習に参加したことで、漫画を「研究」することの楽しさを実感でき、よい経験になったと思います。
ちなみに、他の参加者が書いたレポートも、前述した『漫画とシネマで文化研究』という冊子で読むことができます。子供や恋愛、医療、不良少年などなど、どれも興味深い内容です。機会があればぜひご覧ください。

<参考資料>
福岡大学人文学部文化学科[]2019)『漫画とシネマで文化研究』福岡大学・平成30年度学部教育充実予算・人文学部文化学科プログラム報告書.

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