「教員記事」最初の4回は、この4名の先生方にご寄稿いただく予定です。
第1回目は美術史の落合桃子先生です。
人生と美術史と
落合桃子(美術史)
このブログは、どのような方が読んでくださるのでしょうか。大学生の皆さん、文化学科に興味を持ってくださっている高校生の皆さんが多いのでしょうか。それならば、自分の高校・大学時代のことから、話を始めるのがよいのかもしれません。
神奈川県に生まれ、地元の幼稚園と小学校に行った後、東京都内にあるキリスト教系の中学・高校で学びました。昨今ヒットした映画『君の名は。』の主人公の一人、立花瀧が住んでいる(という設定の)駅の近くに私の通っていた学校がありました。映画では主人公たちが電車に乗っている場面がよく出てきますが、私も同じようにJR線などで学校に行っていました。満員電車での通学がストレスだったのか、あるいはカトリックの厳格な校風に馴染めなかったのか、中高生時代には、自分とは何者なのか、人生とは何なのか、そんなことを悶々と考えてばかりの日々でした。
その頃によく聴いていたのが、PEALOUT(ピールアウト)という日本のロックバンドの音楽でした。「April Passenger」「Summer’s gone」「Winter」といった季節や時間をテーマにした曲が多く、人生とは時間の流れであって、季節の移り変わりのようなものなのだろうとイメージをするようになりました。『GYRO』というマキシシングルのCDジャケットには後ろ姿の人物も登場しています。今になって思えば、この時期に漠然と考えていたことが、後の美術史研究のテーマにつながっていくことになったようです。
大学生になり、初めは心理学を志すものの、美術史という分野があることを知り、美術史を学ぶようになりました。今日まで研究を続けていることを考えれば、正しい選択だったのでしょう。大学生の頃は、時間があれば美術館に行き、分野や時代、ジャンルを問わず、多くの展覧会を観るようにしていました。
卒業論文では、第二外国語がドイツ語だったこともあり、ドイツ・ロマン派の風景画家として知られるフリードリヒ(Caspar David Friedrich, 1774-1840)を取り上げました。後ろ姿の人物の描かれた作品で有名な画家でもあります。自分の関心とリンクしていたようで、大学院の修士論文と博士論文でも同じ画家の作品研究を行うことになります。
修士論文では、フリードリヒの晩年の代表作《人生の諸段階》の作品研究を行いました。バルト海に面した浜辺に、杖をついて外套をまとった後ろ姿の老人をはじめとする5人の人物が描かれています。背景の海には5隻の舟/船が見えています。薄雲のかかった夕焼けの空が広がっています。この絵について政治的・社会史的な解釈を提示しました。
神奈川県に生まれ、地元の幼稚園と小学校に行った後、東京都内にあるキリスト教系の中学・高校で学びました。昨今ヒットした映画『君の名は。』の主人公の一人、立花瀧が住んでいる(という設定の)駅の近くに私の通っていた学校がありました。映画では主人公たちが電車に乗っている場面がよく出てきますが、私も同じようにJR線などで学校に行っていました。満員電車での通学がストレスだったのか、あるいはカトリックの厳格な校風に馴染めなかったのか、中高生時代には、自分とは何者なのか、人生とは何なのか、そんなことを悶々と考えてばかりの日々でした。
その頃によく聴いていたのが、PEALOUT(ピールアウト)という日本のロックバンドの音楽でした。「April Passenger」「Summer’s gone」「Winter」といった季節や時間をテーマにした曲が多く、人生とは時間の流れであって、季節の移り変わりのようなものなのだろうとイメージをするようになりました。『GYRO』というマキシシングルのCDジャケットには後ろ姿の人物も登場しています。今になって思えば、この時期に漠然と考えていたことが、後の美術史研究のテーマにつながっていくことになったようです。
大学生になり、初めは心理学を志すものの、美術史という分野があることを知り、美術史を学ぶようになりました。今日まで研究を続けていることを考えれば、正しい選択だったのでしょう。大学生の頃は、時間があれば美術館に行き、分野や時代、ジャンルを問わず、多くの展覧会を観るようにしていました。
卒業論文では、第二外国語がドイツ語だったこともあり、ドイツ・ロマン派の風景画家として知られるフリードリヒ(Caspar David Friedrich, 1774-1840)を取り上げました。後ろ姿の人物の描かれた作品で有名な画家でもあります。自分の関心とリンクしていたようで、大学院の修士論文と博士論文でも同じ画家の作品研究を行うことになります。
修士論文では、フリードリヒの晩年の代表作《人生の諸段階》の作品研究を行いました。バルト海に面した浜辺に、杖をついて外套をまとった後ろ姿の老人をはじめとする5人の人物が描かれています。背景の海には5隻の舟/船が見えています。薄雲のかかった夕焼けの空が広がっています。この絵について政治的・社会史的な解釈を提示しました。
フリードリヒ《人生の諸段階》1834-35年,ライプツィヒ美術館 |
博士課程に進学してからは、一日の4つの時や四季、人生の諸段階を主題とした、複数の画面からなる連作形式の作品へと関心を広げました。フリードリヒの連作で一日の時と四季、人間の一生、そして宇宙の流れまでもが同じ連環のうちに捉えられているのはどうしてなのだろうと思ったのです。調査を進める中で、こうしたテーマは19世紀前半のドイツで大変好まれた画題であって、シンケル(Karl Friedrich Schinkel, 1781-1841)やコルネリウス(Peter von Cornelius, 1783-1867)といった同時代の多くの画家たちがこの主題の絵画作品を制作していたことがわかってきました。また18世紀末から19世紀前半のドイツでは、哲学者のヘルダー(『人類歴史哲学考』1784-1791年)やヘーゲル(『歴史哲学講義』1837年)が書いているように、人類の歴史が幼年期・青年期・壮年期・老年期という人間の一生として捉えられていました。こうした時代背景の中で、フリードリヒは絵を描いていたのです。
フリードリヒという画家の絵について研究することで、実は自分の人生について考え続けていたのかもしれません。これまでの研究成果を博士論文としてまとめることができ、これからは新たなテーマにも取り組みたいと考えています。この春から文化学科で教育や研究ができることをうれしく思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
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