2022年10月17日月曜日

新資料紹介―続々と発見される新たな孔子の言行録―

「教員記事」をお届けします。今回の寄稿者は、哲学の中村未来先生です。

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新資料紹介―続々と発見される新たな孔子の言行録―

中村未来(哲学)

 孔子(前551?-前479)と言えば、中国の春秋時代末期に活動した儒家の祖であり、その言行が門人たちの手によってまとめられ、『論語』として流布したということは有名です。『論語』は後世、しだいに重視されて経典化され、朱熹(1130-1220)ら宋代の学者たちは「四書」の一つに数えて最重要文献に位置づけました。

 ただし、孔子の言行については、実はその他の経書(『礼記』『春秋』三伝等)や諸子の書(『墨子』『荘子』等)にもその記録が散見しており、中には『論語』のイメージとはかけ離れた逸話や批判が付与されているものもあります。『論語』が不動の地位を得る以前は、やはり様々な学派との論争の中で、儒家もその思想を展開させていたのだろうということがうかがえます。


 近年、そんな孔子の言行を記した中国戦国時代の竹簡が多く発見されています。以前、このブログでも紹介した安徽大学蔵戦国竹簡には、『仲尼曰』(仲尼とは、孔子の字(あざな)です。)という文献が含まれており、そこには現在まで伝わる『論語』(伝世文献)には見えない孔子の言論も記述されています。また、2021年6月に発見されたばかりの荆州王家咀楚墓からも、孔子の言論が記された『孔子曰』という文献が出土しています。

 安徽大学の所蔵する竹簡の図版と釈文は2022年4月に公開されたばかりであり、荆州王家咀楚墓出土竹簡についてはまだ整理初期の速報の段階ですが、これらの新出土文献を解読することによって、『論語』の成立や伝播について、新たな知見が得られるのではないかと研究者の間で注目されています。 

 また、荆州王家咀楚墓からは古代の音楽に関する竹簡も発見されました。細い竹の札の上には、不連続的に数字や十干(甲乙丙など)が配置されており(下図参照)、整理者らはこれらについて、古代の楽譜だった可能性があると指摘しています(何となく三味線や琴の譜面にも似ていますね)。

 有名な儒教経典に「四書・五経」がありますが、実は「五経」は初め「六経」でした。中国の戦国期には「易・書・詩・礼・春秋」という5つの経典の他に、音楽に関する経典が存在したようですが、これは『詩経』や『礼記』に併合・整理されたり、焚書により早くに散逸してしまったのではないか等と考えられています。もし、この音楽に関する新出土文献が解読されて研究が進めば、あるいは古代の『楽経』の一部が復原されることになるかもしれません。

 孔子は実際、何を語り、何を語らなかったのでしょうか。また中国古代(先秦時代)の儀礼祭祀では、どのような音楽が演奏され、歌われていたのでしょうか。『論語』には採られず、経典からこぼれ落ちて失われてしまった当時の豊かな言葉や音楽(思想や文化)が、新資料によって再現される日も近いかもしれません。



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