2015年7月19日日曜日

日本の擬人化文化(LC13 H.T.さん、T.K.さん)

 今年度6回目の学生記事をお届けします。2013年度入学のH.T.さんとT.K.さんが、「日本の擬人化文化」と題した論考を執筆してくれました。

 
 こんにちは、福岡大学人文学部文化学科に所属するH.T.とT.K.です。文化学科は、同じ人文学部の歴史学科・英語学科・ドイツ語学科などと異なり、学科名に単一の学問分野の名称が付いていません。そのため、何を勉強しているか、よく分からないという話を時々耳にします。文化学科は一つの学問領域でなく、宗教学や社会学、民俗学、哲学など複数の学問領域を幅広く学ぶ学科です。講義を受けていると、日本人の文化や考え方が、諸外国との関係の中で時間をかけて独特な発展を遂げていることが多いことに気づかされます。そこで、私たちの身近で「これは日本の考え方が影響しているのでは?」というものを考えてみると、「擬人化」が当てはまるのではないかと思い、この記事で考察することにしました。
 
皆さん擬人化はお好きですか?
 日本では昔から擬人化が用いられてきました。先日まで東京国立博物館にて展示されていた日本最古の漫画として有名な国宝「鳥獣戯画」や「さるかに合戦」「かちかち山」などの昔話はその代表的なものです。そして、最近は日本のサブカルチャーにおいて、動物などにとどまらず、国や都道府県、機械、企業、食べ物、乗り物、武器etc. ・・・様々なものが擬人化され、一大ブームとなっています。それにしてもなぜ日本では擬人化が受け入れられ流行っているのでしょうか? 擬人化作品が好きな私たちの視点から「なぜ擬人化しようと思うのか」ということを考えてみました。

そもそも擬人化とはなんなのか(T.K.)
 昨今の日本において擬人化というと、無機物や動植物を人間の姿で表現し、キャラクター化するいわゆる「萌え擬人化」がよく取り上げられています。そのキャラクターも男性向けの可愛い女の子、女性向けのイケメンがいて、容姿や年齢、性格など、バリエーションも豊富です! 

 しかし、本来擬人化とは「人ではないものを人に見立てる比喩表現」であり、人間の姿をとらずとも、無機物や動植物に人間のような行動をとらせるだけでも擬人化と言えます。

 擬人化の歴史は古く、元々は古来よりある神話(ギリシャ神話や日本神話)などで自然に対する偶像崇拝の概念として擬人化が用いられていたとされています。その後、物語や絵画などでも擬人化を用いるようになりました。物語や絵画においての擬人化は、見る人に親しみを持たせるためだったり、時には人間を風刺するためだったり様々な目的で用いられ、発展してきました。

日本における擬人化文化を考察してみる(H.T.)
 なぜ日本で擬人化文化が発展しているのか考えてみましょう! このことに対して私は一つの考えを持っています。なぜ、擬人化文化は西欧などのキリスト教圏などでは発展しなかったのか。それは唯一神イエス・キリストの存在だと考えられます。キリスト教圏は、一神教でイエス以外の神は認められません。つまり、日本のような八百万の神といった考えは認められないのです。そのため、キリスト圏では、物に魂を吹き込み動かす擬人化という文化は広まらなかったのではないか、と考えています。

 しかし、キリスト教圏にも狼男やヴァンパイアといった存在がいるではないか、と反論されるかもしれません。これに対してですが、このような存在はキリストの存在を裏付ける存在だと私は考えています。(正義は悪がいないと成り立たないのと同一。)また、狼男はキリスト教が布教されるまである地域において精霊的なものでしたが、キリスト教の導入により排除の対象となりこのような形で存在しているのではないか、とも考えています。
 
 それに比べて、日本の思想として、「付喪神」であったり「八百万の神」というようなあらゆるものに魂が宿るという考え方は、普段意識していなくても根強く残っていると思います。この考え方が日本で認められていることにより、例えばスマートフォンと充電器を擬人化し、そこから物語をつくることもできます。さらに、キャラクターは自分の思い通りに容姿や性格などをカスタマイズ可能なので、まるで自分の子供のような愛着が湧き、擬人化する前の物にも不思議と愛着が湧いてきます。このように自分の頭の中や紙面上で自分が考えたキャラクターを自由自在に動かすことは、とてもわくわくします。物を擬人化し、楽しむという文化は何に対しても魂を吹き込むことに抵抗のない考え方(思想)を持つ日本だから発展したのではないかと考えています。

擬人化作品好きから見た擬人化の良いところ
 擬人化の良いところはやはり、「とっつきやすさ」だと思います。あまり興味のないものや種類がたくさんあって覚えにくいものでも、人間の姿や性格を持たせることで特徴をつかみやすくなり、親しみやすいうえにとても記憶に残るようになります。また、たとえ最初は擬人化されたキャラクターそのものにしか興味がなかったとしても、そのキャラクターを好きになると、そのキャラがどうしてそのような容姿や性格に擬人化されたのかを知りたいと思うようになり、そこから、元の歴史や特徴などを調べ、知見を広げる良いきっかけとなります。また歴史に興味ないから、と思っていても、そのキャラクターにまつわる話を見てみると、そのキャラクターをもっと好きになれると思いますよ。

例えばどんな擬人化作品があるの?
 現在、擬人化は、漫画やゲームなどで幅広く取り上げられています。ここでは私たちが好きな2作品についてお話したいと思います。

・Axis powersヘタリア(日丸屋秀和 幻冬舎)
 国を擬人化した漫画で、多少現実とは異なりますが、各キャラクターの性格や国同士の関係性を(少しオーバーだな、と思うところもありますが)はっきりと描いています。漫画は4コマで各国の歴史的な出来事を時折、エスニックジョークを交えながら展開しています。そのため、読むだけで大まかな歴史を知ることができます。これは暗記が苦手!と思っている方で漫画を読むのが好きな方は嬉しいことではないでしょうか。ヘタリアは世界史を中学校や高校で習ったことがある人にはおなじみの作品かもしれませんね。

 ここで注意する必要があるのは、作中で史実通りに描かれているからといって、載っていること全てが正しいわけではないということです。例えばイギリスは食の味があまり好ましくないという話が作中に出てきます。その情報を真に受けて、実際にイギリスに訪れ本場の料理を食べたことがないのに、「あまり美味しくない」と信じ込み、そのことを知らない他者に一方的に情報を押し付ける形になってしまいネットで話題になったことがあります。ネガティブな情報は全てを鵜呑みにせず一度よく考える必要もあるのではと思います。

・艦隊これくしょん-艦これ-(開発:角川ゲームス、配信:DMM.com)
 第2次世界大戦中に大日本帝国海軍が保有していた艦艇を、女の子(通称:艦娘)に擬人化したブラウザゲーム作品です。(※対象は18歳以上)

 ゲーム内で手に入れたキャラクター(艦娘)が、自分がどの戦いに出て活躍したのか、どのような特徴を持った軍艦なのかをプレーヤーに教えてくれます。艦娘のセリフやキャラクターデザイン、またゲーム内のクエストには作戦名が使用されるなど、史実に基づいている作品なのでプレイしていて、心にぐっと沁みるものがあります。また自分の好きな艦娘を育て、編成することができるのも楽しみの一つです。最初はキャラクターにしか興味がわかなくても、ゲームをプレイしているうちにだんだんと史実に興味が湧き、調べるという人も現れています。軍艦は戦争で使われていた道具、という負の遺産として考えられると同時に、日本を守るために造られた道具でもあると考えています。戦後60年が経った今、戦争の記憶は薄れつつあるとよくニュースで見ます。ゲームではありますが、戦争を忘れないようにするきっかけにもなり得ると思います。

 現在、擬人化文化は、漫画やゲームなどで幅広く取り上げられています。擬人化作品も上記に限らず、多く存在します。自分の興味のあるものを調べてみてはいかがでしょうか。また、想像力を働かせ、自分の身近な持ち物を擬人化してみてはいかがですか。 新しい世界が少し開けるかもしれませんね!

参考にしたウェブサイト
・「擬人化」『デジタル大辞泉』(http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/52044/m0u/
・「艦これ」(2015年7月11日閲覧、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%A6%E9%9A%8A%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8F%E3%81%97%E3%82%87%E3%82%93_-%E8%89%A6%E3%81%93%E3%82%8C-
・「ヘタリア」(2015年7月11日閲覧、
https://ja.wikipedia.org/wiki/Axis_powers_%E3%83%98%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2


LC13台 H.T. 、T.K.
 

0 件のコメント:

コメントを投稿