「教員記事」をお届けします。第九回は心理学の大上 渉 准教授です。
文化学科教員の大上 渉です。
もともとの専門は認知心理学なのですが,最近は犯罪心理学に関する研究が多くなってきました。
例を挙げると
事件現場の血痕や被害者の流血が目撃者の心理状態に及ぼす影響
福岡市内で発生した連続放火事件の犯人像分析
日本国内のテロ組織の犯行パターンの分析
などですね。
今年の夏は卒論生とともに,
スーパーやコンビニエンスストアにおける異物混入事件
列車往来危険事件(線路内の置き石など)
などの実態調査や犯人像分析にも取り組んでいます。
また先日,KBC九州朝日放送「ニュースピア」さんより,犯罪者プロファイリングに関する取材を承りました。8月13日(水)に放送され,ひょっとしたらご覧になられた方もいるかもしれません。
KBCニュースピア取材スタッフの皆様 |
従来の犯罪心理学では,解決した事件について,「なぜこのような事件が起きてしまったのだろうか?」,「どうして犯人はこんな残虐なことをしたのか?」と深く考察するアプローチが取られていました。しかしながら,このアプローチで得られた知見を積み上げても,犯罪捜査(事件解決)に役に立つ知見は必ずしも得られませんでした。
そこで最近では,類似事件のデータをできる限り多く集め(数百件以上),現場の状況や犯人の行動などから,犯人の属性(例えば性別,年齢,職業,婚姻歴,精神疾患の有無など)を統計学的に推測するアプローチ,いわゆる犯罪者プロファインリングが研究・実践されています。
大量に集められた事件データを解析すると,犯人の行動と属性の規則性が明らかになります。例えば,都市部においてバイク・自動車に放火する犯人は20代以下の男性が多い,またゴミに火をつけ放火する犯人は40代男性が多いといった具合です。こうして得られた知見は,捜査側への容疑者像の呈示,あるいは捜査線上に浮上している複数の容疑者の絞り込みなどに役立ちます。
このように「犯罪者プロファイリング」はデータマイニングの手法を応用したものなのです。こうしたアプローチにより,捜査の現場では常識と思われていた「定説」が覆されることもあり,正しい実態が認識されるようになってきました(越智,2012)。
例えば,10年ほど前ではストーカー事件は,見知らぬ人物につきまとわれる犯罪だと思われていました。これは実際にあったセンセーショナルな事例(女優ジョディ・フォスターの熱烈なファンがフォスターにつきまとい,彼女に気に入られようと当時の米国大統領ロナルド・レーガンを銃撃しました。ストーカーが米国の国家中枢まで震撼させた事件でもあります)や映画・ドラマなどの影響があると思われます。しかしながら,ストーカー事件のデータを集めて分析してみると,日本では被害者の元夫や元恋人が復縁や復讐のために行った事件がほとんどでした。
犯罪者プロファイリングは,データを大量に集めることができれば様々な犯罪に適用可能です。現在は放火や性犯罪など個人的犯罪に対してもっぱら行われています。しかしながら,過激派によるゲリラ事件や暴力団による銃撃事件など組織的犯罪にも有効とみられています。今後しばらくは犯罪者プロファイリング研究のブームが続きそうです。
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