2015年10月3日土曜日

東日本復興支援プロジェクト報告(佐藤基治先生)

 「教員記事」をお届けします。本年度第十回は、心理学の佐藤基治先生が、福岡大学の「東日本復興支援プロジェクト」の報告をしてくださいました。毎年行われている同プロジェクトの活動は、現地の方々からも高く評価されています。


東日本復興支援プロジェクト報告

佐藤基治(心理学)

  8月下旬に実施された福岡大学の「東日本復興支援プロジェクト」へ参加した。45名の福岡大学生が3班に分かれ活動し、そのうちの1つのグループに同行した。文化学科の学生諸君の中には、この企画を知らなかった人も多いようなので、ここに活動の様子を記して、なにかを考える手掛かりにしてもらいたいと思う。
 
図1
  福岡大学は東日本災害ボランティア福岡大学派遣隊という名称で2011年夏の第1次から2014年の第4次まで、合計約300人のボランティアを派遣してきた(詳しくは大学のホームページの記事参照)。今年度からは名称が「東日本復興支援プロジェクト」に変更された。それは、地震から4年が経過し、さまざまな人々や組織の活動が、「東日本大震災に対するボランティア活動」から、「東日本復興への支援」へと内容が変化しつつあることに対応している。地震による被害が、人口減少、高齢化や産業の空洞化といった全国の地域社会が抱える問題を顕著化させたので、単なる原状回復ではなく、復興を契機にこれらの課題を解決し、「新しい東北」を創造したいと復興庁が唱えているからである。このような考え方の基礎となる実際の東日本地域の状況を自分の目で確かめるのも今回の活動の目的の一つである。

  8月18日午前中に、学生と教職員計50名が福岡空港に集合し、仙台空港に向けて出発した(写真1)。仙台空港から貸し切りバスで高速道路を約2時間走行すると南三陸町に到着する。最初に防災対策庁舎で線香をあげ、被災者の冥福を祈るとともに、ボランティア活動の無事を祈念した。昨年の活動の際には防災対策庁舎が更地に文字通り「孤立」していた(写真2、3)が、現在は周囲の区画に高さ10メートルほどの盛り土がなされており、防災対策庁舎は盛り土の山々に埋もれたように存在する。この辺りは津波で大きな被害を受けた場所で、「復興」が進む中で、防災対策庁舎を「忘れないでほしい」という思いと「忘れさせてほしい」という思いの間で、現地の人々は未だに揺れ動いている。
図2
図3

  19日は南三陸町の雑草で覆われた避難路の清掃をした。これは「椿道プロジェクト」という津波の際の避難路に、塩害に強い椿の木を植えて道標にしようとする活動の一環である。椿の木の成長のためには下草を抜く必要があり、それは人の手で地道にやっていくのであるが、ところがそのような軽作業に従事する人手がないのである。ボランティア活動といえば、大震災直後には体力を必要とする作業もあり、強靭な体力を持つ人が過酷な環境の下で限界まで活動するというイメージだが、現在では寧ろ軽い作業に従事するボランティアが必要とされているようだ。重機を使った復興作業が進む一方で、たくさんの人手が必要な作業は中々捗らない。派遣隊の一部、15人で3時間ほど働くと歩きやすい径になるのにである(写真4,5)。
図4
図5

  20日は南三陸ボランティアセンターの紹介で漁業作業に派遣された。作業はホタテ養殖の漁具の手入れであったが、より重要な活動は漁師の視点からの津波の体験、「復興」事業への感想の聞き取りであったように思う。「津『波』っていうから、白い波がしらのあるのを想像するかもしれないけど、『引き波』でいったん数百メートルほど沖まで海がなくなったかと思うと、『押し波』でビルのような灰色の壁が押し寄せてきた。」。ニュースなどでは復旧した道路や鉄道だけが報道され、放置された部分を目にすることは少ないが、道路沿いにはいまだに打ち上げられた漁船やグニャグニャのガードレールが放置されており、未開通の線路は雑草に埋もれてしまっている(写真6)。

図6
  21日の活動は気仙沼市の小学校で、夏休み中の学童保育の手伝いであった。普段は20人ほどの低学年の小学生を2,3人の教員で担当しているが、15人の大学生がサポートすると、ほぼ1対1での対応が可能となり、児童には好評の様子であった。

 22日、23日は石巻に移動した。海岸沿いの津波の跡を高台の日和山から見渡すことができる(写真7)。震災前は住宅などが立ち並ぶ街だったのが、一面の更地のままである。海岸沿いは大規模な公園になることが決定したが、どこまでを公園にするかという新たな問題が生じている。22日は石巻市のボランティア団体の案内で海岸部を見学し、その後、防災に関するワークショップを体験した。東日本大震災で得た教訓を生かした「防災・減災」、「自然災害への備えと対応」が主要なテーマであった。23日は石巻専修大学のボランティア団体とのワークショップを行った。「復興から地域の問題を解決する」がテーマであり、「震災の風化を防ぐ」「被災地の問題を「知ること」は、地域問題の解決を考えること」と考え、「自分が、いま、すぐ、できる「行動」を考える。一人ひとりの小さな行動が、防災や地域問題の解決へとつながることを考えてみた。

図7
  こうして約1週間の活動は終了した。ここでは現地の様子を簡単に報告したが、この企画では事前研修と事後研修も行われた。事前研修では、活動の目的、日程や場所を含めた活動内容の決定、活動に必要な物資の準備などを参加学生自らが行った。事後研修では、東日本の状況を自分自身が確実に把握するために、次年度のメンバーに引き継ぐために、家族・友人・知人に伝達するために、年末までに報告書を作成する予定である。
 
 震災直後の、多くの人がボランティア活動に参加するときには、それはそれで人手が必要な時期であり有用なのだが、4年の歳月が過ぎた今、もっと地味な形での人手、息の長い活動が必要なようだ。震災直後には何となく気を削がれて、参加できなかった人も、こっそりと東日本の復興支援に参加してはどうだろう。新聞やテレビではわからない東日本の現状、復興の様子、人々の暮らしを直接目にするのは、「文化の多角的総合的理解」を目指す文化学科の学生にとって、有意義だと思う。今後は11月25日に学内で報告会を開催し、来年4月には次期の参加者募集の予定である。

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