「教員記事」をお届けします。2016年度第4回目は、岩隈 敏先生です。
今この時から自立の日までに
文化学科 岩隈 敏 (哲学)
もうずいぶん前に、新入生に向けて一文を書いたことがあります。
それを多少、加筆修正して掲載します。
今まで君は、いろいろのことを両親や学校に望み、期待してきた。そしてその多くが叶えられ、ここまで育ってきた。今からは自分がどんな期待に応えられ、何ができるかを考えて欲しい。そのために必要な力と、人間としての器量を、この大学、文化学科で精一杯努力して身につけて欲しい。
第二次世界大戦中、ユダヤ人強制収容所において、ひどい拷問や僅かな食べ物での強制重労働、ガス室でいつ集団虐殺されるとも知れない恐怖など、過酷な体験をした心理学者ヴィクトール・E・フランクルは言う(『夜と霧』みすず書房、2002)。
この惨たらしい限界状況で生き続きえたのは誰だったか。ドイツ国民が救済に立ち上がるだろう。連合軍がやがて助けにくるだろう。戦争はすぐに終結するだろう等々と、他を頼み、人に期待した者は、その当てが外れるたびごとに自滅していった。ただ生き抜く力を維持できたのは、愛する妻や子供が待っている、世に認められた中途の仕事や研究が完成を待っている等、待つものの期待に応えようとした者だけだった、と。
「人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなく、むしろ人生が何をわれわれに期待しているかが問題なのだ。・・・われわれが人生の意味を問うのではなく、われわれ自身が問われたものとして体験されるのである。」
終末医療に携わる柏木哲夫は(『死を看取る医学-ホスピスの現場から』NHKライブラリー、1997)確実な死を間近にして、その受容能力が高く、残った命を強く生きることができるのは、自律的な生き方をしてきた人、自分のもつ力や経験、技術などを与えながら人生を送ってきた人だという。
さて、君は自分の人生からいったい何を期待されているだろうか。また君は人に何を与えることができるだろうか。
自分の人生からの期待に応え、人に何かを与えるために、自立の日までに君は何をする必要があるだろうか。
□岩隈先生のブログ記事
・大学とは何でしょうか?