故宮博物院展
今からおよそ半年前のこと。太宰府の九州国立博物館で台湾の故宮博物院展が開催された。門外不出、どこの国にも貸し出されたことのなかった中国の秘宝が初めて海を渡って国外に出るという。それもわが福岡の地に。授業中にこの話をしたところ何人かの学生が興味を示したので、日時を決めて、一緒に出かけることになった。
そもそも故宮と言えば古の宮殿、すなわち今日の北京にある紫禁城のこと。現に北京の紫禁城内には故宮博物院という同じ名前の博物館がちゃんと存在している。二つの故宮博物院。この複雑な現状を招来するにあたっては、実は日本も深くかかわっているのだが、それはともかく、台北と北京、どちらの故宮博物院により価値があるかといえば、もちろん台北。極端な話、北京については見るべきものは建物以外ないという人もいるほど。その台湾の故宮博物院の収蔵品が直接目にできるというのだから、出かけない手はない。
東京と福岡の二か所で開催された今回の展覧会。東京では翡翠で作った白菜が目玉として開催から一週間特別展示されたが、残念ながら福岡には来なかった。福岡の目玉は同じ翡翠でできた肉型石。故宮所蔵品の中でも別格の秘宝、あの翡翠の白菜はもちろんのこと、展示会の最終日近くに行ったので、肉型石も目にできなかったが、さすが台湾故宮博物院。中国皇帝が愛でた数々の名品は私を魅了した。個人的な感想を述べさせてもらうなら、宋・明の時代精神をそのまま伝える青白磁器・赤絵・染付などの焼き物コーナーは圧巻。特に今まで写真でしかお目にかかることのなかった宋代の青磁器との出会いは強烈なインパクトを私に植え付けた。一緒に行った学生諸君もそれぞれの関心に応じて博物館を満喫したようであった。
紅葉真っ盛りの秋の太宰府。博物館鑑賞の後、天満宮の裏手にある茶屋で、今度は紅葉の鑑賞。太宰府の茶店と言えば、なぜだか知らないけれど「お石茶屋」に決まっている。緑茶をすすりながら、太宰府名物の梅が枝餅に舌鼓。アー、それにしても餡子はやっぱり粒あんに限る。心身ともにリフレッシュした一日であった。
台湾の故宮博物院は多分二度と来ない。お目にかかるには台北まで自分で出かけるほか手はない。しかしさすが国立博物館。どの展覧会も中身のレベルは高い。福岡の人は恵まれている。その上、福岡に住む大学生であれば、国立博物館に限らず、学生証を提示するだけで県内の博物館・美術館の類で特別の割引が受けられる。この特権はおおいに活用すべし。国立博物館と太宰府天満宮。セットにすれば福岡から日帰りのピクニックとして絶好のコース。新緑がまぶしい五月に出かけられてみてはいかが? 因みに、九州国立博物館の現在の展覧会テーマは、『戦国大名―九州の群雄とアジアの波濤―』。
石田和夫